『半島へ、ふたたび』蓮池薫

半島へ、ふたたび

半島へ、ふたたび

著者は、拉致被害者であり、7年前に帰国を果たすことができた蓮池氏。彼の本を読むのは、翻訳書、自著合わせてはじめてだが、非常に読みやすく、また興味深い内容だったので、一気に読んだ。
本書は二部構成になっている前半は韓国を旅行してきた時の気候エッセイ、後半は翻訳者という仕事について。全くの独立したものになっている。
前半に描かれているのは韓国紀行。この韓国行き、単なる旅行ではない。仕事(取材)という意味もあるが、旅行のように気軽に楽しむものではなく、いやがおうにも辛かった北朝鮮での生活を思い出される旅となる。貧弱なインフラ、貧しい食糧事情、思想統制・・・。何一つ望んでいないのに、過酷な環境に追いやられ、その中で必死になって生きてきた24年間と、現在の韓国の比較。もともと同じ民族、同じ文化を持ち合わせている韓半島の人が、分断され50余年、同じところもあり、全く異なっているところあり。北朝鮮に長く住んだ(住まわされた)彼にしか書けないことが詰まっている。
後半は翻訳者としてデビューした経緯やその仕事ぶりを語っている。翻訳家の仕事を知るという意味でも、日韓、南北の違いを知る意味でも興味深い。謙遜して書かれているが、文章は非常に読みやすく、著者の人柄がにじみ出ているようだ。著者の翻訳書を読んだことがないが、きっといい文を書いているだろうと思われる。
本書でも何度も描かれているように、北には拉致被害者が多く残っており、その方たちの帰国を強く訴えている。その日がくるのはいつになるだろう。本書を読み、一刻でも早い解決を願う気持ちがさらに強くなった。