『アマゾン・ドット・コムの光と影』 横田増生

アマゾン・ドット・コムの光と影

アマゾン・ドット・コムの光と影

話題にチト遅れた感があるが、一度読み始めたらとまらなく、2日足らずで読了。

急成長をとげるわりにほとんど情報がでてこないアマゾンに、物流センターのアルバイトとして潜入して、そこから見えてくる実態を、筆者なりの推測も交え、解説している本。著者は、もと物流業界紙の編集長。出版業界やアマゾンフリークの人には、ちらりちらりとアマゾントリビアを知ることもできるし、面白く読めると思う。

内容のポイントは、次の3点。

  1. アマゾンというベールにつつまれた会社について
  2. 広がる労働格差の問題
  3. 出版流通の現状と今後

アマゾン(や日通)がここまで秘密主義だとは知らなかった。私が数字なんかに疎いから、気にならなかったのか。神経質までに人を管理し、秘密主義を貫くからこそ、急成長ができたのか。ただ、アマゾンの経営などには、ほとんど触れられていないので(本文中で何度も書かれているように、取材を受けてもらえないからということもあるでしょうが)、その点はちょっと残念。

それから、ワンクリックで数日のうちに本が手元に着くという便利な買い物をする顧客のうらでは、低賃金でロボットのように働くアルバイトたちがいることについて。最後に著者が『希望格差社会』から引用して説いているが、これはアマゾンに限らず、哀しいかな今のコンビニやらファーストフードやら飲食店やら、バイトがいないと成り立たない業界はすべて似たりよったりともいえるんだろうな。

実は私は、この本、アマゾンで買った。私が、ポチッとクリックしたあとには、シアトルのサーバーを経由して、市川の物流センターへいく。そして、2〜300人いるアルバイト(1分間に3冊以上を棚から集めるよう「ノルマ」で縛られている時給900円のだれか)が棚からピッキングし、梱包し、発送しているのだ。そう思うと申し訳ないような気もしてくる・・・がやっぱりこの便利さには変えない。ネットショッピングはやめられない(と、著者自身も言っている)。

潜入ルボということで、配送センターにアルバイトとして半年働いた体験がこと細かに書かれているので、この事情はよく分かった。学生バイトならまだしも、確かにこれで生計を立て要るのは難しい。フリーターのナマの姿が垣間見らる。途中で自給が下がる話もあったが、回転率も異常なほど高くまさに「使い捨て人材」なんだなぁ。

それから、出版流通、特に取次ぎの中抜きの問題について。今は、大阪屋、日販という取次経由がほとんどだが、このままアマゾンが成長し続ければ、そのスケールメリットにより、出版各社と直取引をできるまでに成長するだろうということ。

これらの問題のなかで、一番ひしひしと伝わってくるのは、「労働格差問題」。「躍進するIT企業階層化する労働現場」というサブタイトルはこのためなんだな。アマゾン利用者の75パーセント以上の世帯収入は500万円を越えているが、それを下支えする物流センターで働く人たちの年収は、200万円そこそこ。本文には書かれていないが、アマゾンの社員や日通の社員もそこそこいい年収なんだろう。やりがいも向上心もないまま、時間を切り売りして働くアルバイトと、その労働力を使い捨てで利用する雇用者。このシステムは、幾人もの識者が指摘しているように、今後ますます広がっていく危険性が高い。

最後に。書かれているのは、主にアマゾン・ジャパンについてなのに、タイトルは『アマゾン・ドット・コムの光と影』。米アマゾンにこだわったのは、なんでだろう。実は、アマゾン・ジャパンには何も権限がない(米国本社のいいなりってこと?)というくだりがあったが、それを示唆しているんだろうか。

装幀:清水良洋(Push-up) 写真:monographics