『マガジンハウスを創った男岩堀喜之助』新井恵美子

マガジンハウスを創った男 岩堀喜之助

マガジンハウスを創った男 岩堀喜之助

『平凡』が休刊したときのことは覚えている。小学生の頃だった。私の記憶の中では『明星』とならぶ「アイドル雑誌」だったが、もともと『平凡』は戦後で自信をなくし、貧しい中孤独を抱えながら必死に働く若者を勇気付ける娯楽雑誌だったとそうだ。この時代にとってはとても大きな意味をもつ社会的な雑誌だと思うが、その事実さえ知らなかった。
本書はその『平凡』を創刊し、育て上げた岩堀喜之助の生涯をつづったもの。前半は生まれから、不思議な縁で学校を出、大学まで行き、様々な仕事を経て出兵、そして出版社を作るまで。後半は雑誌『平凡』の創刊から躍進までが描かれている。著者は、岩堀氏の長女でノンフィクションライターでもある新井恵美子さん。
岩堀氏が平凡出版を創ったのは35歳のとき。「新しいことを始めるにはギリギリ」のときだが、好んでその歳になったというわけではない。戦争があったがためである。それまで雑誌の経験はなく、娯楽を否定するような戦争時代の苦い経験から、庶民の楽しめる雑誌を作りたいと熱い思いで立ち上げたのがこの出版社というわけだ。本書を読む限り、氏はかなり人なつっこく、粘り強い、情熱のある人である。詳細は書かれていないが、いわゆる雑誌の編集者というよりは、雑誌を核とした様々なイベントを考えるプランナー的な立場の人のようだ。また『平凡』の躍進は細かく描かれているが、その後の『アンアン』『ポパイ』などについては全くと言っていいほど記述はなく、一気に晩年まで話が飛ぶ。
最後に1つ疑問。なぜ「マガジンハウスを創った男」であって、「平凡出版を創った男」もしくは「『平凡』を創った男」ではないのだろう。岩堀氏が作ったのはあくまで『平凡』だと思うのだが・・・*1

*1:「マガジンハウス」に改称したのは、岩堀氏の死の翌年。