『フリーペーパーの衝撃』稲垣 太郎

フリーペーパーの衝撃 (集英社新書 424B)

フリーペーパーの衝撃 (集英社新書 424B)

出版不況が続くなか、広告収入のみをビジネスモデルとしたフリーペーパーの創刊が相次ぎ、いまや日常の一部ともなった。このフリーペーパー業界は、いったいどうなっているか、業界の今を国内外からレポートし、現在の問題点やこれからを考えている一冊。
最近、フリーペーパーは本当に増えてきた。リクルートの「R25」「ホットペッパー」、昔からある「ぱど」や「サンケイリビング」など有名どころから、不動産、求人情報まで、駅の専用ラックに行けば何誌でも手に入れられるし、街を歩けば手渡しされ、家にいても郵便ポスト、折込チラシに入ってくる。
すべてを広告収入に頼るというビジネスモデル、ネットの世界とも通じるこのモデルでやっているフリーペーパーは、実に日本では950社、1200誌、年間約2億9400万部もあるそうだ(業界団体であるJAFNA(日本制圧情報紙協会)より)。多いなぁと思っていたが、数にすると改めて驚く。もちろん全国すべての統計であり、地域密着型が多い媒体なので、ほとんどが見たことがないものであっても当たり前なのだが。ちなみに、21世紀に爆発的に増えたが実は歴史も結構あり、1960年代にも発行されている。
今はブームとなっているが、黒字になっているかどうかは別問題、収支を合わせてやっていくのは結構大変なようだ。フリーペーパーは、読者のターゲッティングがしやすく広告には向いている媒体ということでここまで伸びてきたが(ただし、その認識ができてきたのも割りと最近なようだ)、読者となるパイは決まっているわけで、いつまでも部数を伸ばし続けることは無理だろう。広告ありきが大前提のビジネスモデルなので、これからバタバタいくところも出てくるのではないだろうか。
本書のなかには、フリペの創業者の奮闘記も何人分かされているが、必ずしもマスコミ出身者ではないが印象的。印刷業者など周辺業者も入れても、雑誌や編集の仕事の素人から始めているパターンも多いそうだ(逆にこれが、紙面のクオリティが問われるようになってきた昨今の課題とも言える)。
飽和ともいえる日本のフリペ業界だが、未開拓の分野がある。それは日刊紙。海外では、1995年にスウェーデンで創刊された『メトロ』が嚆矢となり、いまや当たり前になっている国もあるようだ。日本でまだない理由はズバリ参入障壁が高いから(チャレンジはあったが、壁が破れなかった)。でもこの流れでいくと、もはや時間の問題のような気もする。新聞社各社ももちろん、対策を考えているだろうし。
最終章には高校生によるフリペ刊行までの挑戦記もあり、ホロリさせられる場面も(笑)。
フリーペーパーの今とこれからを考えるのにぴったりな良書。