『希望のニート』二神能基

希望のニート 現場からのメッセージ

希望のニート 現場からのメッセージ

ニートや引きこもりを支援をする現場から見たニート論。著者は、大学卒業後、一度もサラリーマンを経験することなく、塾を経営したり、教育関係の仕事をしたのち(その間にニートも経験)、現在はニート不登校・引きこもりの再出発を支援するNPOニュースタート」代表を務めている。

ニート=働く意欲のないぶらぶらしている若者」という考えかたに一石を投じ、彼らはバブル崩壊後、社会が大きく変化するなかで社会のゆがみから生まれた純真な若者と位置づけている。右肩上がりを前提とした金儲け至上主義の社会構造にもう無理が来ているのだから、一度ドロップアウトしたような彼らでも生きやすい社会を築いていくことが大切だ、と。

ここに登場する引きこもり、ニートの若者(なぜか多くは男性だ)の特徴は、非常に生真面目で親(多くは母親)に依存的。その生真面目さゆえに社会と渡り合っていけず、最終的に家族の繭の中に入り込んでしまう。だから、著者の団体では「家族から社会へ」の橋渡し役を行っている。実例を読むに、若いだけに新しい環境に順応し、8割方上手く再出発を切っているようだ。すばらしい。

ただ、そうやって再スタートを切ることができても、収入面ではどうしても社会的弱者から抜け出ることはできない。とりあえず、何もしない、できない状態よりはずっといいし、その辺は折り合って、親と自分の収入を合わせて暮らしていく(新パラサイト論と言っていた)や新しい形の大家族制度などを提案している。


今は、「普通」に学校行って、「普通」に就職、「普通」に働きつづける、というのがすでに難しい世の中。若者が働けないのも、子どもを育てながら働きづらいのも、定年後の喪失感も根っこのところは同じかもしれない。「普通」からはみ出している、ということ。そういえば、著者は自身の一人娘に望んでいたこと、それは「普通に生きること」だった。

装丁:上田宏志 装画:網中いづる