『少子に挑む!』日本経済新聞社

日経新聞で大好評を博した「少子に挑む」が大幅に加筆修正されてまとめられたもの。なので、いろんな角度から取材されたものがまとめて読める。なので、経済問題、高齢化問題から、会社での働き方、外国人労働者、結婚、子育て、働く母の問題まで多種多様(各問題点が、項目ごとに「メッセージ」欄にまとめてあるのがよい)。

まえがきにあるように、日本は、一人っ子対策をかかげた国ではないが、出生率は1.29(東京に限っていえば、1.0107)。見えざる"一人っ子対策"がなされているかのようなのだ。その何かを、いろんな角度から考えていく本である。

以下、気になった箇所をいくつか抜粋。

高齢化に関して

70対4。社会保障給付に占める高齢者向けと児童関連費の比率だ(p26)
少子高齢化社会。民主主義の原則にしたがえば、高齢者が数で有利になる。これから社会の担い手になりうる若年世代の意見は通りにくい。(p34)
日本の有権者に占める割合は、2003年時点ですでに50.4%(p64)
身寄りのない高齢者から、「葬式、納骨、部屋の後片付けや家賃の生産、死亡届の提出など、死後の始末を生前に請け負っている」NPOがある(p145)

少子化対策について

2004年12月、・・・・初の少子化白書にこうある。「団塊ジュニアが出産期に当たるここ5年に、積極的に少子化対策を行うべきだ」。(p165)
出産費用は約40万円。仮に昨年産まれた110万人分を国が負担するとすると4400億円。2005年度に住宅金融公庫の損失処理につかう公的資金とほぼ同額(p24)

働き方について

二人目以降の妊娠をきっかけに退職を迫られるケースが増えてきたと言う(p75)
専業主婦の税制優遇で支援しているのは子育てではなく、「内助の功」で支えられている企業社会だ。(p170)
女性の(育児休暇の)取得率は平均9割を超え欧米先進国なみの水準だ。ただ日本では働く女性の6割が出産前に会社を辞める。高い取得率も見かけにすぎない。(p161)
「就業構造基本調査(02年)」を見ると、出産を理由に無職となった女性の62%が、就業を希望している(p210)
働く女性に対する意識調査では、過半数が「子どもを持つことは職場での評価にマイナスの影響を与える」と回答した(p211)
2005年4月に施行された次世代支援対策推進法。子育て支援の行動計画をつくり、成果が出ると政府から「優良企業」のお墨付きをもらえる。選定条件のひとつは男性一人以上の育休実績を出すこと。取材班が主要企業に実施したアンケートでは81パーセントが認定を「希望する」と答えた。(p171)

結婚・妊娠・出産・育児について

20代後半の女性の未婚率は、(略)2000年には54%に達した。30代前半でも女性の27%は結婚していない(p119)
1997年の出生動向基本調査によると、未婚女性のうち理想のライフコースとして「一生結婚せずに働く」「DINKS」など、子どものいない生き方を選んだ人はそれぞれ4%にとどまる。(p209)
2004年新生児は百十万人強。不妊で産みたくても産めない人がいる一方で、人工妊娠中絶件数は30万件を超えている。(p17)
国内では今、不妊治療を受ける人は年間47万人。(p128)
「『自己実現が大切』という教育をうけてきた若い女性たちにとり、乳幼児の世話は初めて体験する自己犠牲」(原田教授)。(p214)

「読者から」から

「税収増や年金を背負う世代の増加の目的で少子化を憂うなら、それは偽善でしかない」(p70)
「一人目の子どもを産まないのは、子育てに自信がないからだが、二人目を産まないのはコストの問題だ」(p70)
「家庭は父親不在だけでも大変なのに、母親も不在になりつつある」(p107)
「夜九時まで開いていて、夕食を出してくれる保育園など要らない。(略)国には短時間労働、定時退社を徹底してほしい」(p107)
「育児休暇を取得したいのだが、昇進を考えるとあきらめるしかない」(男性)(p107)
「日本にも希望する人が苦労せず結婚できるような仕組みが必要」(p153)
「企業にも行政にも子どもは存在していないかのようだ」(p157)

その他

日本の人口は戦後の7500万人から今日まで5000万人も増えた(p199)
中国は「豊かになる前に老いる」可能性が高い(p221)
医療技術の発展で乳幼児死亡率が低下し、多産の必要がなくなった(p218

まだまだ、気になったこと満載。ぜひ、本を読んでみてほしい。

それから、「私の意見」として有識者の意見がいくか掲載されていたが、実現できるかどうかはともかく、面白い意見が多かった。
なかでも、一番面白いと思ったのは堺屋太一氏の「教育期と出産期を重ねることはできないものだろうか」というもの。学生のときは無駄に時間があったもんなぁ。あのとき、まさか子どもを産むなんてことは考えたことがなかったけど(結婚の「け」の字すらなかったし)、一番の働き盛りと出産期がガチンコで重なってしまって悩むというのが基本セオリーになっている今のシステムより、合理的かも。

装丁:斉藤よしのぶ+戸倉厳