ドタバタ出産劇

  • 大量出血!

 あっついなぁと思いながら、いつものように寝ていると、にゅるっとした気持ちの悪い感覚で目が覚めた。布団を見ると、なんと血の海ができている。「やばい!出血している!」
 動転しつつも、一方で冷静な自分もいて、この状況でどうすればいいか一瞬のうちにあれこれと巡らした。まずは夫を起こして状況を説明し、マズイ状況だ、病院にいかなければならなさそうだと告げ、お風呂に急行。体についた血を流し、着替えを済ませた。その間も塊状の血がドスンドスンとばかりにでてきた。
 時刻は午前3時前だが、時間問わず受け入れ態勢があるのは、産婦人科のいいところ。まずはかかりつけの病院に電話をし、状況を伝える。大量の血が出たということを説明すると、やはり「急いで来てください」とのこと。
 タクシーを呼ぼうかと思ったが、呼んでいる間に行ったほうが早そうなこと、血がまだどれだけ出るか予測がつかないこと、なにより自家用車のほうが安心ということで、車を出してもらうことに。寝ぼけているチビを車にのせ、用意してあった入院セットをひっつかんで出発。
 大量の血を見た夫もかなり動転していて、「ライトってどうやって点けるんだっけ?」なんていっている。こんなんで無事病院につけるのか??? おまけにお盆初日だからだろうか、深夜3時という時間にもかかわらずかなりの交通量。これが、昼間だったら、渋滞に巻き込まれていただろう。
 車で移動中、何度か胎動を確かめると・・・、あるある!ちゃんと動いている。頑張れ、赤ちゃん。急ぐからね。
 家を出て20分ほどで、無事病院に到着した。

  • 救急車初体験

 病院につくと、まずは電話を受け取った看護師さんが内診。その間も血の塊(レバー状)がドロッと出る。内診してもらうと、子宮口はまだ2センチ足らずしか開いていないらしい。NST(分娩監視装置)で見ると赤ちゃんの心音はしっかりしていることが分かり、ほっと安心。血圧を測ったりしているうち、お医者さん到着(そこは個人病院で、基本的に同じ先生に診てもらっていたのだが、その日は代診の先生だった)。
 再度、内診したり、エコーを見たりしてもらったが、やっぱり子宮口の開きが悪いし、子どもも高い位置にいるので、すぐに産まれることはないが、胎盤の一部が剥がれ落ちているということで、なんと緊急搬送し大きな病院で診てもらうことになった。新しい病院の診察次第だが、帝王切開になる可能性も高いという。先生が搬送先を電話で探してくれている間、看護師さんから待合室で待っていた夫にも同じ説明がされたようだ。
 その病院から近いところにもいくつか大きな産科病院はあるものの、時間的な問題なのか時期的な問題なのか分からないが、なかなか受け入れ先が決まらない。ただ、不思議なことにそのころには出血はとまっていたし、陣痛っぽい痛みも含め、痛みがほとんどないので、イライラも不安もなく、とても冷静に「早く決まるといいけどー」くらいに思っていた。
 数十分して、看護師さんがやってきて、受け入れ先が決まったこと、救急車で移動することが説明された。病院名を聞いても、なんとなく聞いたことがあるものの、どこにあるどんな病院かよく分からい。どのみち自分で選べるわけではないので、「よろしくお願いします」というだけだった。
 救急車を待っている間、応援に呼ばれた看護師さんが2名来てくれて(自宅から急遽、呼び出されてきたそうだ。急行してくださった看護師さん、ありがとうございます)、救急車に同乗してくれるという。手厚い看護に多謝!
 救急車が到着すると、ストレッチャーに乗せられ、人生初の救急車へ。夫とチビは場所を確認して、車で先方に駆けつけるといって飛び出していった。救急車は意外とすぐには発車せず、ルートの確認をしたり、症状をいろいろ聞かれたり、カルテ(?)のようなものを書いたりしていた。その後、ルートが決まったのか、ようやくサイレンを鳴らし発車した。
 そのころにはすでに夜が明けていてすっかり明るくなってていたが、救急車の中からは何も見えない。壁一面に救急の道具がかかっており、反対側には救急士さんとつきそいの看護師さんが乗ってくれていた。
 初救急車の感想は、「救急車ってかなり揺れるんだな」というものだった。自分はそのとき気分が優れないこともなく、痛みもない状態だったので、なんともなかったが、本当に具合が悪くなったとき、この揺れはきつそう。それだけで悪化しそうなくらいだ(仕方がないけど)。ただ、上向きに寝るとお腹の重みで苦しいので、横向きにさせてもらい、あとはお任せで運ばれていった。

  • 病院到着

 救急車の中で、搬送先の病院は紀子さまが出産されたところだということを聞いて、ビビる。根っからの庶民の私は、光栄ではあるが、そんなセレブ病院、大丈夫か〜?と変な心配が頭をもたげたのだ。そんなことを考えている場合じゃないのに。冷静というか、なんというか。
 それもこれも、腹の底から「絶対自分も赤ちゃんも大丈夫」「無事に生まれてくるに決まっている」という強い強い確信があったから。まったくといっていいほど不安はなく、手術しなくちゃいけないのは仕方がないけど、無事に産まれてくれるならそれでもいいかとすでに開きなおっていたのだ。
 朝の5時台だったが、やはりお盆のせいか、道が混んでいたようだ。最適の道を探して行きますと話していたが、どのようなルートで着いたかはよく分からない。気付いたら、到着していた。不思議なことに、数分しか先に出発していない夫とチビが病院の前にいた(あとで聞いたら、首都高を使ったようだ。それでも救急車よりも早い到着って・・・)。
 ともあれ、着いたら病院の中へゴロゴロっと引かれていき、急行。エレベータにのり、すぐさま「手術室」へ。

 到着したのは、5時半ころだっただろうか、手術室に入ると、うもむもなく衣服を脱がされて(つまり丸裸・・・)足にカバーなどをはめられる。心電図のためのシールが張られ、血圧計が巻かれ、点滴の管をさされ、胸の上部あたりに仕切りがつけられ・・・手術のための準備が、自分の心構えなどとは関係なく着々と進んでいる。その間にも、こちらの先生に病院や救急車で説明したような今までの状況をもう一度説明した。
 お医者さん、看護師さん、助産師さん・・・10数人いたが、そのうち2人がお医者さんのようだった。モニターや写真をみて相談しているようだった。血は止まっているし、完全な(?)早期剥離ではない(「とても危険な状態」ではない)が、このまま置いておくと危険な状態になりかねないのでここで帝王切開でいこうということになり、そのように説明があった。
 麻酔医の先生がきて、背中から麻酔が入った。半身麻酔なので意識はあるが、すぐに下半身の感覚がなくなり、あれよあれよというまに執刀。ブニブニとひっぱられる不思議な感覚があったと思ったら、「ほぎゃー、ほぎゃー」。産声だ!産まれた!産まれたぞ!
 「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」。目の前には、この世にでてきたての赤子が。あぁ、無事に産まれ出てくれたんだ。自宅で大量出血に気がついてから、約3時間半後、何事もなかったかのようにこの世に元気にでてきたわが子。自然分娩のあの苦しみの中で産まれるのとは違い、バタバタすべて夢の中にいるようなうちに産まれ出てきたわが子。ありがとう、産まれてきてくれて!
 それから、私はその後の処置を施された。赤子は赤子で産湯に浸かったりし、夫やチビのもとにも行ったようだ。先生が手術の経過と結果を説明してくれたが、そのころは眠気がものすごく襲ってきて、眠くて眠くて話半分聞けるかどうかの状態だった。

  • 術後


 手術台から移動式のベットに載せられ、そのまま部屋へ。移動中、二言、三言、チビと夫と会話する。2人はその後自宅に帰った。
 ベットのまま搬入されたところは、カーテンで仕切られていてそのときは分からなかったが、あとで知り得たところによると、帝王切開をした人が休む部屋だった。6人一部屋で、私が来た頃には先客が、2、3人いたようだ。
 それからは、麻酔も効いていて体の自由も効かず、点滴にもつながれ、体の眠気に任せてトロトロと眠り続けた。

  • メールで報告

 夕方起きると、体は相変わらず動かないものの、頭はしっかりしている。そこで、携帯を取り出し(確認したら、病室の携帯使用はOKだった)、メールで各方面に出産のご報告。まだ自分の体が動かないながら「母子ともに元気です」と書いてしまう。赤子は本当に元気、私もすぐに元気になる予定だからいいんだけど。

  • ご対面

 夜になり足が少〜しずつ動くようになったころ、看護師さんが「赤ちゃんを連れてきましょうか」といってくれた。見せてもらうと、やっぱり、チビの産まれたときに似ている。チビも産毛がすごくて、顔中、背中中毛だらけだったが、今度の赤子も熊五郎。毛だらけ猿顔も可愛い、可愛い。ちなみに、予定日より2週間ほど早く産まれたことになるが、3200グラムもあり、体つきもチビとほとんど同じ。予定日までお腹にいたら、どのくらい大きくなってたんだろ。
 自分がほとんど動けないので、腕の中に入れてもらうような形で、しばし添い寝のようにしてもらう。そのスタイルになると、顔があまり見えないのが残念だが、ぬくもりが暖かかった。
 新生児は、2、3時間おきにおっぱいを飲むという感覚でいたが、全く寝っぱなし。聞くと生まれた当日や翌日は、飲まず飲まずで寝っぱなしが普通だという。こっちがびっくりするくらい赤子は眠りつづけていた。
 この病院は母子同室の方針だが、この日だけは夜、新生児室に預かってもらった。

 今回は突然の大量出血による緊急帝王切開での出産となったが、麻酔を入れているわりに術後の痛みもかなりのもので、横になってじっとしている分にはいいのだが、少し動くだけでとても痛かった。徐々に痛みは引くというが、手術当日はほとんど動けなかった(麻酔のおかげと痛みと両方で)。普通分娩で産めるつもりだったので、ほとんど帝王切開について知識がなかったが、思わぬ体験で大変さが身をもって分かった。
(記:8月20日