『ユージニア』 恩田陸

ユージニア

ユージニア

猛暑続く夏、K市の資産家青澤家で、祝い事席上死者17人の大量殺人が起こった。一応犯人は、精神を病んで自殺した男ということで形がついたが、実は裏には隠された事実が。果たしてそれは?

と書くとミステリーの王道みたいだが、描かれ方は全然違う。ミステリーの基本は、「(真)犯人はだれ?」なんだろうが、犯人はわかるようになっているだ。それにもかかわらず、物語はのろのろと続いていく。なんだこのまどろっこしさは(笑)。もどかしいが、読まずにはいられない。随所で描かれる夏の暑さとあいまって、ねっとりとする感じがする(発売当初に買っていたものの、積読されていて今になって読んだのだが、このクソ暑い日々に読むのにぴったりだ)。

はじめから最後まで、各章にそれぞれ「その事件の周辺にいた人」が登場するのだ。その人へのインタビューに答えた形式だったり、まるっきりその人の視点から語られたり、その人を主人公にした神の視点から描かれたりしている。つまり、語り手が1人ではなく、見る角度はバラバラだし、時代もバラバラ、記憶や印象など個人的な事情もあい混じっていて、この人はどういう関係者で、本当のことをしゃべっているのか?とひとつひとつを疑いながら読み進めなくてはならない。

読み終えたいまでも、実は疑問に思う点がいくつか残っている(読解力の問題か?)。読後もなお、もどかしさを残す小説なのだ。
ちなみに、ややこしい物語をまとめてくれているサイトを見つけた。その名も「禁断のユージニア」。でも疑問が解けるわけではないんだけどさ。

なお、この装丁はとっても凝っている。装丁家祖父江慎さん(なるほどーでしょ?)。裏にどこかの路地の写真を刷り込んでぼんやり見せているカバーもさすがだが、本文デザインも一ひねり。版面が微妙にずれているのだ。その微妙具合がじれったいのだが、それも狙われた効果なのかもしれない。冒頭部分も紙の大きさを変えて、不思議なめくりにしてある。
特設サイトに、「注)本書は「壊れかかった不安定な本」というコンセプトを元に造本しております。変型された本文は、デザイン上の意図によるもので、乱丁ではありませんのでご了承ください。」とあるのは、そういちゃもんをつける人が多いってことかな(笑)