『いのちの始まりと終わりに』 柳澤桂子

いのちの始まりと終わりに

いのちの始まりと終わりに

トレンダーズ、女性企業塾の経沢香保子さんがおすすめされていた本ということで(本の中だったか、雑誌だったか、どこかのサイトだったか忘れてしまった)、興味をもち購入。

本書は、「生」と「死」という非常に重いテーマを扱っている。出生前診やクローン、臓器移植などの問題から、原子力をはじめとする環境破壊、安楽死尊厳死にいたるまで、生命をめぐるすべての意味と倫理を問うているのだ。

著者の柳澤氏は、30年間病と闘った経験をもつ、サイエンスライター。科学的知識と、生・死にまつわる問題意識の非常に高い方だ。最近では、『生きて死ぬ智慧』がベストセラーになっている。闘病生活があまりにつらく苦しいかったので、「治療の停止」を医者に依頼したこともあるという(結果は、家族の猛反対で治療は続けられ、回復をみた)。

ふだん意識しない「生」と「死」の問題を真正面から捉えていて、読みすすめていくと息苦しくなるほど。「出生前診断で重度の障害児(この世に産まれても長くは生きられない)だと分かった子を、なんの躊躇なく産めるか(逆に、中絶できるか/中絶した人をせめられるか)?」「親が病気になって、尊厳死を望んだら(医者にそれを依頼できるか/その結果を、世間に言えるか)?」

一方、生きているってそれだけですごいんだ、とも思った。今、自分がここに存在していること、そして子どもをひとりを産み落とすことができたこと、これはそれだけでとても尊いことなのではないか。

中にはアメリカを中心に、裁判になった判例が出ているが、判決は首を傾げたくなるものも多い。命の選択に人がどれだけ決断をくだせるかということに加え、アメリカ的な考え方にはついていけないことも多々。

命の考え方に正解はないのだ。ただ、それに背を向け、思考を停止してはいけない。

装丁:間村俊一 装画:赤勘兵衛