『公務員 赤松良子』 杉山由美子

公務員 赤松良子 (こんな生き方がしたい)

公務員 赤松良子 (こんな生き方がしたい)

働く母だ、ワーキングマザーだ、育児休暇だなんだとさんざんこのブログでとりあげてきたのに、その大元となる「男女雇用機会均等法の産みの母」赤松良子さんについては、なにも知らなかった。
本書は、その赤松さんの生き方を、非常に読みやすく、ドラマチックに描いている。

1929年大阪に生まれた赤松さんは、恵まれた家庭環境のもとのびのびと育つ。小さいときから利発で努力家だった彼女は、女に学問はいらないという風潮が残る社会の中、どうしても勉強をしたいと単身上京、津田塾に入学。のち、東大法学部に入り、その後労働省(現厚生労働省)に入省する。女性に昇進昇格のチャンスが少なかった時代にもかかわらず、持ち前のガッツで次々に昇進。女性の地位向上に尽くす。1985年の「男女雇用機会均等法」成立の中心となった。駐ウルグアイ大使や文部大臣を務めるなどし、現在は大学教授や芸術劇場の館長などを勤めている。

また、24歳のときに男の子も産んでおり、ワーキングマザーのひとりでもある。育児休暇などもなく、社会的な整備も未熟、周りの人の意識も「女は家庭」のなか、本当に大変だったと思う。地方勤務や海外勤務、深夜に及ぶ残業、今でも多くの働く母の壁となっていることを、今より困難な時代に乗り越えられてきた人だ。

全体的に読み物としてもよくできていて、ぐいぐい引き込まれるが、特に5章の「男女雇用機会均等法の生みの母に」のところがエキサイティング。「女が社会進出するから日本がおかしくなった」と臆せずいう経済界の重鎮どもに頭を下げ、法案作りの雰囲気作りのための根回しに奔走し、迫るタイムリミットのなか、一歩も譲らない雇用者側、労働者側の板ばさみに苦しんだが、それでも「生涯の仕事の集大成」としてやり遂げたその情熱には敬服するほかない。

働く女性として、彼女たちの努力を今まで知らずしてきたことは、恥ずかしい。均等法前の男女差別はすさまじかった(らしい)。今、私たちがこうして曲がりなりにも差別されることなく働けるのは、赤松さんをはじめ、そのために戦った人がいたからだ。心から感謝。


ちなみに、この「こんな生き方をしたい」シリーズは、主にジュニア向けで全20巻。「過去の偉人伝ではなくより身近な女性の人生をたどることによって、進路や生き方、一生の仕事を選択するための新しい伝記シリーズ」ということだそうですが、ジュニアだけにはもったいない!

読みやすいし、現代に生きている女性が取り上げられているので背景なども肌で感じやすい。ただ、ここで取り上げている人は、まさに「偉人」級のひとたちなので、凡人にとって一生の仕事選びをするのに参考になるかどうかは、??である。