『闇の左大臣』 黒岩重吾

闇の左大臣―石上朝臣麻呂 (集英社文庫)

闇の左大臣―石上朝臣麻呂 (集英社文庫)

古代史小説のファンとして、なにより黒岩氏のファンとして絶筆となった本書ははずせない1冊のはずであるが、主人公があまり名の知られてない「石上(物部)朝臣麻呂」のためなのか、彼の生涯を通して描こうとしたためなのか、どうもインパクトの弱い薄まった印象を受けた作品となった。

一番の見せ場は壬申の乱だと思うが、そのあたりを重点的に描くに留めるなどすればもっといい作品になったように思う。

ただ今までほとんど知られていない(だから「闇の」)人物にフォーカスし、描ききっているのは氏ならではの筆力だと思う。

ちなみに、この主人公麻呂というのは、「蘇我臣馬子との戦いに敗れた石上物部の血筋をひく石上朝臣麻呂。最下級の官人でありながら、左大臣まで上り詰めた人物」である。そのなぞめいた人物に小説家心をくすぐられたのだろうか。