『女子と鉄道』 酒井順子

女子と鉄道

女子と鉄道

鉄道ファンというと、全国の路線を制覇したり、時刻表やグッズを収集したり、電車の写真を撮るのに命をかけたり・・というメージがあるけど、それは男性のマニアな世界。楽しければいいじゃんという女の鉄の道を伝えてくれる本。

ただ、いくら"ゆるーい鉄道ファン"だったとしても、そこは酒井さん、単なる旅行記じゃない。さりげなーく素敵なウンチクが入ったり、鋭い視点で描かれている(「新幹線の顔」には笑わせてもらった)。しかもウンチクもマニア語ではなく、一般女子レベル語で解説してくれているのでありがたい。あ、いや、鉄の道女子部は勉強しなくてもいいんだっけ?

鉄道の旅のみならず、鉄道系グルメ(ここで紹介されていたお店、ぜひ行ってみたいっ)、鉄道菓子からステーションホテル、女性専用車両まで、関連エッセイがてんこ盛り。

この本の基準に従えば、私も結構「鉄色」が強い人かも(笑)。すでに鉄の道まっしぐらなチビの趣味に付き合って詳しくなっていたということもあるけど、きっと酒井さんと同じく素地はあったんだなと思う。中学から今に至るまで(厳密には大学時代は除く)電車通勤だけど、今も電車乗るの大好き。乗ったことのない路線の電車に乗るのはワクワクするし、路線図は覚えるのも眺めるのも好き(時刻表は大して好きでないけど)。若い時分は、青春18切符でよく帰省とか旅行とかした(時間はあったけど、お金がなかったからという理由もあるが)し、長い間電車に乗っているのはたいして苦ではない。ユーレイルパスでヨーロッパをまわったこともある。愛でる対象という意味でも、珍しいデザインだと「ほぅ」と思うし、見慣れた電車でもカーブを描いてホームに入線してくる姿は美しいなと思う。

それにしても、これを読んでいると、ぶらりと鉄道の旅に出たくなる。「日本は狭い島国だけど、鉄道の路線が多いことでは世界一」(チビの持っているでんしゃのDVDがこのセリフで始まるんです)ではないが、本当にさまざまな路線があって、素敵な列車があるにもかかわらず、乗ったことがあるのは極わずか。しかも、味わいのある電車がどんどんなくなっていくようなので、勝手に焦り気味(笑)。

それにしても、酒井さんは自分の鉄道好きの理由を「乗りさえすれば」「どこかつれてってくれる」「自分で責任をとる」ことをしなくていい、いわば「体内回帰気分」でいられるから、自分の「以来欲求」を満たしてくれるものだから、と分析している。こんなこと考える人っている?本書でも酒井節は炸裂。電車好きならもちろん、それ以外の方もぜひ。